~いま一度確認しておきたい「紫外線」と「皮膚」のカンケイ(前編)~
わたしたちを取り巻く環境は日々変化し、美容・健康に関する常識も日々更新され、それに呼応してスキンケアプロダクトは目覚ましい進化を遂げています。わたしたちが見落としているかもしれない、身体を守る皮膚科学に関するメカニズムを、皮膚科ドクターが専門家の観点から解説します。
紫外線のカットは「老化」のみならず「発ガン」予防にも
「日光浴は大事」「日焼けした肌はカッコいい」「海やプールに行くときだけ日焼け止めを塗ればいい」そんな風に考えている方もいらっしゃるでしょうか。
紫外線に当たることにはメリットとデメリットがあります。皮膚科学的にはデメリットのほうが多く、きちんと日焼け止めを使って防御することをお勧めしています。環境省から提唱されている「紫外線環境保健マニュアル」においても、紫外線に対しては防御が必要とされています。
紫外線はシミ、シワといった皮膚の「老化」にも大きく関係しています。人生100年時代と言われるようになってきました。元気にはつらつと健康寿命を延ばしたいものですが、年齢とともにシミやシワが増えてきてしまいます。元気に年齢を重ねるには見た目をケアすることも大事です。また、若い頃、日光に当たる機会の多かった方は、高齢になったときに日光に当たっていた部位の皮膚がん発症リスクが高まります。
皮膚の様々なトラブルを予防するために、最低限のスキンケアの基本は「洗顔、保湿、遮光」です。紫外線を防御するために日焼け止めを1年中使うことは、「老化予防」だけでなく「ガン予防」にも繋がります。地球の環境変化によって紫外線の皮膚への影響は年々強くなっています。紫外線と皮膚との関係を正しく知り、自分の皮膚を守りましょう。
そもそも紫外線とはどういうもの?
太陽の光には、目に見える光(可視光線)と目に見えない赤外線や紫外線(Ultra violet:UV)が含まれています。紫外線は地表に届く光のなかで、最も波長の短いものです。
さらに紫外線は波長の長さによってUVA、UVB,UVCの3つに分けられます。UVCは空気中の酸素分子とオゾン層でさえぎられてしまうので地球には届きません。UVBはオゾン層によって地表に届く量こそ減りますが、完全に遮られるわけではありません。UVAはその多くが地表に届くため、長く当たることにより様々な影響が生じます。
「地球温暖化」と関連するオゾン層の破壊により、皮膚ダメージが増加
現在問題となっている「地球温暖化」は、人類の活動によって生じた大きな環境変化です。この「温暖化」と密接に関連する「オゾン層の破壊」は私たちの皮膚にも影響を及ぼします。
オゾン層とは、大気圏の上層にあるオゾン(O3)の密度が高い層のことです。この層では太陽光線に含まれる有害な紫外線(UVCとUVBの大部分)を吸収しています。1970年代にこれが破壊されていることが発見されました。オゾン層破壊の主な原因は地球で使われてきた「フロン」です。オゾン層の破壊が進むことで、体に有害な紫外線が地表まで届くようになり、皮膚への影響が大きくなりました。こういった環境の変化は、紫外線による皮膚へのダメージ増加に常がっています。
1日の紫外線量の約8割は、10時から14時の“コアタイム”に
「日焼け止めは夏だけ使う」という方も多いかと思います。実は、紫外線による皮膚のトラブルは春先から増えてきます。私たちが浴びる紫外線の量は場所によっても異なりますが、1年のうち春から初秋にかけてが強く、4月から9月の間で1年間のおよそ70〜80%を占めます。1日のうちでは正午を挟む数時間が強く、夏の午後10時〜午後2時で1日のおよそ70%、冬の同じ時間帯では1日の照射量の80〜85%を占めます。外に出るときには時間帯を考えるだけでもその強さは違うのです。
日光浴は適度に
紫外線は私たちの体に必要なビタミンDをつくるために必要なものです。ビタミンDは私たちの骨を丈夫にするなどの役割があり、健康な身体をつくるうえで大切なビタミンです。年齢を重ねたことで「戸外での活動が減る」「老化現象」「日焼け止めの使い過ぎ」などにより、ビタミンD不足の方が増えています。
だからといって「なるべくたくさん日光浴をしたほうがよい」というのも正しくはありません。WHO(世界保健機関)は、少量の日光が健康にとって大事であるとし、ビタミンDを作るための日光照射の目安として、顔と両手・両足に1週間に2~3回、夏季で約5~15分を薦めています。また、環境省は両手の甲に1日1回、日向で約15分。あるいは日陰で約30分日光の照射を薦めています。
場所や日時によっても紫外線の量が違うためあくまで目安ですが、あまり動けない高齢者の方でも30分程度の外気浴の習慣があれば、必要なビタミンを保つことができると考えられます。
むやみに長時間日に当たるのではなく、紫外線が強い時間帯は避けて、適度に日光浴を行うことが大事です。
紫外線よる二大急性皮膚障害。「日焼け」と「光線過敏症」
紫外線の影響といえば「日焼け」を思いつく方が多いでしょう。「日焼け」は正式には「日光皮膚炎」といいます。夏の海やプールで強い日差しに長時間当たれば誰でも起こり得ます。日焼け止めの使用で軽減はできますが、十分でない場合もあります。最初は赤くなり、ひどくなると水ぶくれとなって皮膚がむけ、やけどの状態になってしまいます。こんなになるまで日焼けすることはもちろん好ましいことではありません。赤くなったあとは茶色く色素沈着を起こすこともあります。
もう一つ、紫外線によって急性におこる皮膚障害に「光線過敏症」があります。これは様々な形の症状で現れますが、紫外線が当たった部位、顔面、首、手、前腕などにかゆみを伴う発疹が出現します【図1】。紫外線に対して特殊な反応をしてしまう方、すなわち紫外線アレルギーがある方に起こる症状です。春先から増加してくる傾向があります。こういった症状がある方はきちんとサンスクリーン剤を使い、遮光をする必要があります。
「光老化」が招くシワ、しみ、たるみ…。そして皮膚ガン
紫外線の影響はすぐに起こる急性期の反応と、長年経過してから起こる慢性的な反応があります。「光老化(ひかりろうか)」という言葉があります。皮膚の老化は仕方のないことでもありますが、さまざまな環境によっても影響を受けます。環境要因の中で影響が大きいのは紫外線です。「光老化啓発プロジェクト」という活動があり、シワ、しみ、たるみといった皮膚老化は紫外線の影響で現れること、これらを防ぐために日常的なサンスクリーン剤を使用すること、などを啓発しています。
もう一つの起こり得る大きな問題は皮膚ガンの発症です。若い頃にずっと戸外での仕事をされていた方の顔面など日光露出部に、「日光角化症」という表皮内癌(表皮内にとどまる早期の皮膚がん)やそこから発生した有棘細胞がん(皮膚にできる一番多い皮膚がん)がしばしば発現します。
こういった点からも日常的にサンスクリーン剤を使用して遮光につとめ、紫外線を避けることのメリットは大きいといえます。
次回、後半では皮膚の老化と紫外線の関係、遮光を含む予防のためのスキンケアについて、もう少し詳しく解説していきます。
永井弥生
「オフィス風の道」代表
医学博士/皮膚科専門医/産業医/医療コンフリクトマネージャー
群馬大学病院にて皮膚科准教授として勤務。その後、2014年、同院の医療安全管理部長として腹腔鏡下肝切除術における医療事故を指摘。3年半にわたり院内の改革および遺族対応に取り組む。現在、群馬の病院を中心に皮膚科医として勤務するほか、医療コンフリクトに関わる講演や研修、産業医として様々な企業25社を担当するなど活動を広げている。