わたしたちを取り巻く環境は日々変化し、美容・健康に関する常識も日々更新され、それに呼応してスキンケアプロダクトは目覚ましい進化を遂げています。わたしたちが見落としているかもしれない、身体を守る皮膚科学に関するメカニズムを、皮膚科ドクターが専門家の観点から解説します。
~いま一度確認しておきたい「紫外線」と「皮膚」のカンケイ(後編)~
前回、紫外線は体にとって必要なものだけれども、適度に浴びることが重要であること、紫外線による皮膚への影響はそのときだけでなく、長年経過してから現れるものがあることをお伝えしました。 今回は「光老化(ひかりろうか)」と呼ばれるシミ、シワ、たるみなどへの紫外線の影響と、紫外線が関与する「発がん」について、また、紫外線による皮膚トラブル予防のための遮光を含むスキンケアについてお伝えしたいと思います。
紫外線が影響する「光老化」の恐ろしさ
誰でも年齢とともに皮膚にはシミやシワが増え、肌が乾燥したるんでくる、そうした老化現象が現れます。もちろん自然に起こることですが、環境によって個人差が生じます。
環境のなかで重要なのが紫外線です。「光老化」は日光にあたる時間、皮膚のタイプの違い、生活習慣、住む地域などによっても影響を受けます。
◆「深いシワ」と「浅いシワ」には原因に違いが
皮膚は表皮、真皮、脂肪という組織からつくられています。皮膚の弾力性を担うのは真皮で、これをつくる主な成分がいわゆるコラーゲンといわれる膠原線維(こうげんせんい)と弾性線維です。年齢を重ねるにつれてこれらの線維は減少してくるため、シワやたるみが生じます。
さらに、長期の紫外線の影響を受けると、後者の弾性線維は強く変性します。これによって、より弾力性が失われ、通常できる細かいシワだけでなく、深いシワができやすくなるという特徴があります【図1】。
◆「光老化」により増える「シミ」 〜「シミ」という言葉には注意が必要
表皮というのは表皮細胞が詰まっていて、新陳代謝を繰り返しています。年齢とともにこの新陳代謝が衰えてくるために皮膚くすみが生じる現象が起こります。
また、シミの色をつくるメラニンは、表皮にあるメラノサイトという細胞からつくられますが、この機能が衰えてくるため、メラニンが皮膚に沈着しやすくなります。その結果、シミが増加してきます【図2】。もちろん個人差はありますが、加齢による自然な増加にプラスして、環境(紫外線)の影響でシミが増えやすくなります。
なお、「シミ」という言葉には注意が必要です。「シミ」というのは正式な病名ではなく、体にできた茶色や黒っぽい色のアザのようなできもの全般を指す俗称です。ここでいう「シミ」は加齢や紫外線の影響でできる「老人性色素斑」や「脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう」という、老人性イボといわれるものを指しています。
シミの種類には、特に女性に多く見られる「肝斑(かんぱん)」というものもあります。これもまた紫外線の影響を受けて増加しますが、ほかの「シミ」とは治療法が異なります。「シミ」だと思っていたものが実はガンだったということもあります。ほくろのガンとよばれる悪性黒色腫(メラノーマ)は、最初はただのシミのように見えることもあります。「急に目立つ『シミ』が出てきた」「『シミ』を治療したい」というときには、きちんと専門医を受診することをお勧めします。
紫外線の影響で「皮膚ガン」に発展することも
農村地域で皮膚科の診療をしていると、しばしばご高齢の方の顔面に「日光角化症」という、ガンの初期といえる変化をみつけます【図3】。これは、若い頃に外で紫外線に当たる機会が多かった方に生じる皮膚の変化です。
「日光角化症」は悪性化した表皮細胞が表皮の中にとどまっている前癌状態(早期のガン)です。さらに放っておくと、「有棘細胞ガン」という「皮膚ガン」を発症します。日本の高齢化が進み、こういった皮膚ガンの症例数は増加の一途を辿っています。
「皮膚ガン」にはいろいろな種類があります。この他にも「基底細胞ガン」、日光暴露部にできる「悪性黒色腫(メラノーマ)」の一部は紫外線と関連しているとされています。いずれもきちんと治療する必要があります。
忘れた頃にやってくる、紫外線が影響する「皮膚ガン」。その発症リスクを減らすためにも、若いうちから紫外線の防御は大事なのです。
紫外線から皮膚を守るにはサンスクリーン剤の使用が有効
メイクをする習慣がある人はクレンジングや洗顔、化粧水や乳液などのスキンケアとともにサンスクリ−ン剤の使用も比較的身近かもしれません。それでも、夏、外に出るときだけ使えばいいと思っている方もまだまだたくさんいます。
日差しの強い時間帯の外出を控えたり、帽子や日傘、長袖の服などでの物理的な防御をすることもある程度は有効です。しかし、しっかり防御するためには、皮膚の露出部にサンスクリーン剤を塗ることが必要です。夏だけではなく、できれば1年中使うことをおススメします。
◆さまざまなサンスクリ−ン剤のタイプ
市販されているサンスクリ−ン剤にはたくさんの種類があるのでどれを選ぶか迷ってしまう方もいるかもしれません。テクスチャー(触感)の違いで分けると、クリーム、ローション、ジェルなどがあります。クリーム、乳液状のローションにベタつきを感じる場合にはジェルや、より液体に近い感触の水溶性ローションを選ぶとよいでしょう。スプレータイプのものもありますが、皮膚が成分を吸収するリスクがあるので顔面への使用は避けた方がよいです。
◆サンスクリーン剤の強さ表すSPFとPAの違いは?
サンスクリーン剤には必ずSPFという表示があります。これは「Sun protection factor」の略でUVBをどれだけ防御するかという指数です。1から50+という表記で示されます。もうひとつPAという表示があります。これは「Protectoin grade of UVA」といってUVAの防御指数です。+〜++++という表記で示されます。
炎天下でのレジャーなどではSPF50++、PAも+++以上の強いものをおススメしますが、日常の戸外での活動ではSPF15〜30でも十分です。水に強いタイプは洗顔だけでは十分に落としきれないことが多いので、きちんとクレンジング剤を使用して落とすることも必要です。
スキンケアの基本は「洗顔・保湿・遮光」
皮膚というのは一番表面、表皮の上に「角質」があります。この角質は強力な皮膚のバリアで、外からの刺激をはねのけて有害なものが表皮や真皮に入ってこないように守っています。紫外線も表皮に作用することでメラニンが増えたり、表皮細胞の悪性化を招いたり、真皮の「膠原線維」や「弾性線維」を変性させます。そういった影響の防御の役割をしてくれているのが角質です。
お手入れされていないカサついた質感の皮膚では、角質の皮膚バリアとしてのはたらきが不十分になります。角質をいい状態に保ち皮膚バリアを強くすることは、さまざまなトラブルから身体を守り、見た目も若々しく健康な皮膚を保つことに繋がります。日常のスキンケアはとても大事なのです。
スキンケアの基本は「洗顔・保湿・遮光」です。汚れと乾燥は皮膚の老化の敵です。洗顔や保湿にも気を使うことで、サンスクリ−ン剤の効果をより高め、紫外線の悪い影響から皮膚を守ることにつながります。将来の皮膚トラブルを予防し、見た目も若々しい健康な皮膚を守るために、ぜひ正しいスキンケアに取り組みましょう。
永井弥生
「オフィス風の道」代表
医学博士/皮膚科専門医/産業医/医療コンフリクトマネージャー
群馬大学病院にて皮膚科准教授として勤務。その後、2014年、同院の医療安全管理部長として腹腔鏡下肝切除術における医療事故を指摘。3年半にわたり院内の改革および遺族対応に取り組む。現在、群馬の病院を中心に皮膚科医として勤務するほか、医療コンフリクトに関わる講演や研修、産業医として様々な企業25社を担当するなど活動を広げている。